親しみやすく、いつまでも心に残る――。まるで大切な思い出のような名曲が誕生した。9月1日(金)にリリースされるMISIAのデジタルシングル『愛をありがとう』だ。
ピアノ、アコースティックギター、ストリングスを中心に構成されたバラード楽曲で、「湖池屋ポテトチップス」60周年記念CMのために書き下ろされたものだ。CMでは遠足の思い出や口喧嘩した姉妹の仲直りといった、日常のシーンのそばにはいつも湖池屋のポテトチップスがあったという内容が描かれ、『愛をありがとう』のサビの部分がドラマティックに盛り上げる。
この曲のテーマとなっているのは、“不変の愛”だ。歌詞でも描かれているように、「大丈夫」という一言や何気ない笑顔は、ささやかなものかもしれない。けれど、いつもそばにあるもの以上に大切なものはない。そのことに気づくまでに時間がかかったりするわけだけど……。
今という時点から振り返り、一緒に泣いたり笑ったりしたことを噛み締める。〈思い出は いつの日も ひだまりのようです〉という歌詞が、決して一人ではないんだよというメッセージとなって確かに伝わってくる。今回の歌詞で最も特徴的なのは、そうしたメッセージの含ませ方だ。不特定多数の人たちに向かって力強いメッセージを発するという方法ではなく、「私とあなた」の関係性における個人的とも言える思い出を綴る感謝と愛に満ちた歌詞は、親密な言葉であるからこそ多くの人の物語となって広がっていく可能性に満ちている。
音楽的には、先ほども触れたとおり、アコースティックな楽器を中心としたアレンジとなっており、そこから感じられる体温が実に心地よい。70年代のメロウなソウルとJ-POPが程よく溶け合った音楽は、時空を超えて、どの時代どの国にあったとしても名曲として受け入れられる間口の広さと奥行きの深さが備わっている。それが可能なのはもちろんMISIAの声と歌の表現力があるからに他ならない。
さらに注目すべきはジャケットのアートワークだ。こちらは2023年2月に逝去された日本を代表するアートディレクターである信藤三雄氏によるもので、彼の最後の作品となった。改めて触れるまでもないが、数々のアーティストの作品を手掛けた彼のアートワークは、まさにポップスを体現するものだった。信藤三雄氏はMISIAのデビューシングルとデビューアルバムからほとんどの作品を手掛けてきた。今回のデジタルシングル『愛をありがとう』もまた、信藤三雄氏によるジャケットアートワークがあることで完成した。親密さと気品、懐かしさと新しさ、優しさと強さ――どこまでも楽曲と共鳴しながら私たちを視覚から音楽の世界へと導いてくれる。
MISIAの描く“不変の愛”は決して特別なものではない。それは誰しもが心のなかに持っている居場所だったりする。愛をありがとう――そんな大切なことに気づかせてくれる曲だ。
(文:谷岡正浩)
湖池屋ポテトチップス「60周年」篇